『すがも新聞』と巣鴨の内側 ― 記録に残された日常

巣鴨プリズンでは、収容者自身が新聞を出していた。1948年6月創刊の『すがも新聞』は全193号を数える。教誨師の記録、収容者が獄中で書いた漢詩とあわせて、判決と釈放の日付の外側にあった13年余りの日常をたどる。

獄中から出た新聞

『すがも新聞』は、巣鴨プリズンに収容されていたBC級戦犯たちの獄中紙である。東京裁判が終結した1948年に創刊された。[1]

創刊号は1948年6月5日付、最終号は1952年3月29日付の第193号で、通巻193号を数えた。[1]

収容環境をめぐる情報や、移送の車中から見えた街の様子が熱心に読み込まれ、獄中生活をユーモラスに描いた漫画が笑いを誘ったという。[2]

課された労働と、慰問

ほとんどの収容者には労働が課せられ、自動車修理や施設内の設備工事といった専門的なものから、清掃・草むしりのような一般的なものまで、38種類の労働に振り分けられたとされる。[2]

ホールでは映画が上映され、渡辺はま子・淡谷のり子・美空ひばりといった歌手や、柳家金語楼のような落語家・浪曲師も慰問公演を行ったとされる。[2]

教誨師が見た最期

花山信勝(1898–1995)は石川県金沢市の出身で、東京帝国大学文学部印度哲学科を卒業し、のちに東京帝国大学の講師・助教授・教授を歴任した仏教学者である。[3]

1946年から3年半にわたり巣鴨プリズンの教誨師を務め、東條英機らA級7戦犯およびBC級戦犯の教誨にあたり、処刑に立ち会った。[3]

その記録『平和の発見』は1949年に刊行され、戦後初のベストセラーとなった。[3]

記録はどこに残ったか

巣鴨プリズンの管理運営にあたって作成された各種の記録・報告書、および収監者が発行していた『すがも新聞』は、米国立公文書館(RG 554)に残されている。そのマイクロフィッシュ複製2,667枚が「巣鴨プリズン文書」として国立国会図書館憲政資料室に所蔵されている。[4]

『すがも新聞』そのものを扱った文献として、茶本繁正『獄中紙「すがも新聞」― 戦後史の証言』(晩声社、1980年10月)がある。[5]

2013年9月には、内海愛子の編・解題により全193号を収めたDVD版が不二出版から刊行された。別冊には解題・総目次・年表が収められている。[1]

収容者自身の手が残したものもある。国立国会図書館憲政資料室の「大島浩関係文書」は、大島浩が巣鴨拘置所に収監中に記した漢詩などの自筆原稿22点からなり、2021年2月10日に公開された。[6]

本サイトが記録しているのは、その一部にすぎない

『すがも新聞』の担い手はBC級戦犯であり、本サイトが主に扱うA級戦犯の容疑者・受刑者とは立場が異なる。[1]

巣鴨プリズンには、1945年11月の開設から1958年12月29日の閉鎖までの13年余りの間に、約4,000名の戦犯・戦犯容疑者が収容された。判決や釈放の日付として記録されるのは、その一人ひとりが過ごした日々のごく一部でしかない。[4]

この記事に登場する人物

出典

本文中の [番号] は下記の出典に対応します。区分: 一次資料=公文書等/学術=論文・研究書/報道/一般書

  1. [1]
    一般書 すがも新聞【DVD版】 全1枚・別冊1 /内海愛子 編・解題 (不二出版 2013-09) ISBN 978-4-8350-7497-9(別冊=解題・総目次・年表, ISBN 978-4-8350-7498-6) リンク
    復刻資料。出版社の刊行案内により、創刊号1948年6月5日付・最終号1952年3月29日付第193号・全193号、および「スガモプリズンに収容されていたBC級戦犯たちの獄中紙」であることを確認。※解題本文は未読のため、内容に関する記述はここから引いていない
  2. [2]
    報道 「巣鴨プリズン」(特集「戦後80年 戦争体験を継承するために」) /イミダス編集部 (集英社 imidas 2025-08-25) リンク
    『すがも新聞』の読まれ方、38種類の労働への振り分け、ホールでの映画上映と慰問公演(渡辺はま子・淡谷のり子・美空ひばり・柳家金語楼)を記載。一般向け解説記事で署名は編集部名義であり、個々の記述の一次照合は未了。補助的な出典として用いている
  3. [3]
    一般書 コトバンク「花山信勝」(20世紀日本人名事典/日本大百科全書/デジタル版 日本人名大辞典+Plus) (コトバンク) リンク
    1898年12月3日金沢市生・1995年3月20日没、東京帝大文学部印度哲学科卒(1921)、東京帝大講師/助教授/教授、1946年より3年半の巣鴨プリズン教誨師、東條らA級7戦犯とBC級戦犯の教誨と処刑立ち会い、『平和の発見』1949年刊・戦後初のベストセラーを確認
  4. [4]
    一次資料 巣鴨プリズン文書(Sugamo Prison Records, 請求記号 SP)解題 (国立国会図書館 憲政資料室) 原所蔵=米国立公文書館 RG 554(撮影当時 RG 338)/マイクロフィッシュ2,667枚 リンク
    1945年11月の開設、1958年12月29日までの運営、収容者約4,000名、各種の記録・報告書および『すがも新聞』が資料群に含まれることを確認
  5. [5]
    一般書 獄中紙『すがも新聞』― 戦後史の証言 /茶本繁正 (晩声社 1980-10) 250p・図版12枚/昭和館所蔵(請求記号 329/C32) リンク
    書誌情報を昭和館デジタルアーカイブで確認。※本文は未読のため、書名・書誌の存在以上のことはここから引いていない
  6. [6]
    一次資料 大島浩関係文書 解題・目録 (国立国会図書館 憲政資料室) 自筆原稿22点/2021年1月受贈・2021年2月10日公開 リンク
    資料群の内容が「巣鴨拘置所収監中に記された漢詩等の自筆原稿」であることを確認

最終確認日:2026-07-29

本サイトは、巣鴨拘置所(巣鴨プリズン)に収容され、その後釈放された戦争犯罪人が、戦後日本の政治・経済に どのように関わったかを、一次資料と学術文献に基づいて客観的に記録する非営利の資料サイトです。 各記述には出典を明示し、一次資料・学術資料で裏付けられない事項は断定を避けています。

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